第8章 むすんで ひらいて✔
「っうく…!」
「おいおいなんだそのへっぴり腰は。筋肉が足りてねぇなァ、足腰もっと鍛えろよ!」
「っ天元と比べたら、誰だって貧弱になるよ…筋肉忍者め」
「そういう文句は勝ってから言えや。あ?」
弾き飛ばされた体が地面を擦る。
体半分泥だらけになりながらどうにか立ち上がれば、目の前で壁となる筋肉盛男が嫌味なくらい挑発的な笑顔を浮かべていた。
杏寿郎との呼吸訓練を始めると同時に、何故か組手は天元が担当となった。
組手以外にも地の利を活かした奇襲技や、忍相手の肉弾戦や。
何処の軍隊ってくらい日々日々滅多打ちにされて、戦闘術を叩き込まれる。
いつも終わった後にすっきりした顔をしてるから、絶対私で日頃の鬱憤を発散させてるんだと思う。
それが妙にムカつくから私も毎度天元の相手をし続けている。
大概は私の即負けだけど偶に、ほんの偶に、額当てを盗んだり膝かっくんしたり急所蹴り上げたり。
地味な嫌がらせだけど、それが決まった時の達成感がこれまた凄いから。
その後の天元の怒りの形相も凄いけど。
「天元様ぁー! 蛍ちゃーん! お夜食の時間ですよー!」
「お食事の用意ができたので、一休みして下さい!」
「汚れた体も拭いて!」
花が咲いたような明るい声に、戦闘態勢に入っていた天元の動きが途端に止まる。
見れば下の丘からお弁当と水筒と冷やした手拭いを持って上がってくる、三人の宇髄家の奥さん達の姿があった。
「おーよ。飯にするか!」
明るく出迎える天元のこの顔だけは案外悪くないなぁと思う。
奥さん達を見ている時の眼差しは本当に幸せそうだから。
「また沢山痣が出来ちゃったね、蛍ちゃん」
「ほらっ顔こっちに寄越しな」
「んむっだ、大丈夫れふ」
「まきを、そんなに乱暴にしては蛍さんが痛がるでしょ。貸して」
「ええ〜っあたしもしたいです!」
「いいよ、あたしが蛍を見てるから」
「おいおい…いつから俺の嫁達は鬼に染まったんだ…」
冷たい手拭いでごしごしと顔を拭いてくれるまきをさんに、雛鶴さんと須磨さんも気遣ってくれる。
あの天元との風鈴実践の一件で、奥さん達とは色んな話を交えたから。
天元が唖然と呟くくらいには距離を縮められた気がする。