第30章 石に花咲く鬼と鬼
「…僕も無神経に訊きました」
「え? いやそんなことは…っ私が言えなかっただけで」
「それなら僕も」
「?」
わたわたと顔を上げて頸を振る蛍に、振り返った鬼太郎が続くように声を重ねる。
「僕が言えなかっただけのことです。だから気にしないでください」
同じだから、と言葉にはしなくとも寄り添われた気がした。
君がそうだったように、自分もそうだっただけ。だから気にすることはない。
変わらず感情の起伏のない声をしていたが、ほんの少しだけ幼い唇の端が緩んだように見えた。
少年の感情の片鱗に初めて触れられた気がして、蛍の瞳が丸くなる。
「…やっぱり鬼太郎くんって私より人生の大先輩だね…」
「(大先輩…)…まぁ。少しだけ蛍さんより長生きはしているかもしれません」
「少しどころじゃない。こんな空気感の子供なんて普通いないよ」
「はぁ」
「鬼太郎くんじゃなくて鬼太郎さんだな…呼び名も失礼な気がしてきた…」
「……それなら鬼太郎でいいです」
真顔でそんなことを告げてくるものだから、鬼太郎の顔もすぐにスンと無表情に戻ってしまう。
共にいた煉獄杏寿郎と名乗る男も中々に個性ある性格をしていたが、蛍もそこに並び立つ者なのか。
少なくとも予想のつかない思考を持つことは確かだと、鬼太郎は覇気のない声で呟いた。
「呼び捨てなんて。鼠男さんだって鼠さん呼びさせて貰ってるし、鬼太郎さんでも違和感ないかと」
「っとォ…オレ様を巻き込むなよ…」
「鬼太郎でいいです」
「はいはぁーい! そげんことならおいどんは!? おいどんも一反木綿さんって呼ばれたいばい! 蛍ちゃんなら木綿くんでもいっちゃんでもなんでもよかけん…!」
敢えてその輪に入らないようにしていたのにと、沈黙を作っていた鼠男が急な巻き込みに目を逸らす。
反して危機として輪の中へと突っ込む勢いできたのは一反木綿だ。
薄っぺらい両手をひらひらと振ってこれでもかと蛍に好意を見せてくる。
「そうだなぁ。一反木綿さんは長いし…木綿さん呼びは名称そのままの呼び方だし…」
「鼠呼びのオレはそのままじゃねェのかよ」