第29章 あたら夜《弐》
守りたいものができたのだろう。
己の命を賭けてでも、想いを貫ける相手を見つけられたのだろう。
その相手が例え人成らざるものであっても、幾度となくその心を救われているのならそれでいいじゃないか。
無惨を倒せるのは選ばれし呼吸の継承者だけだ。
煉獄という名を繋いできただけの自分達には到底辿り着けない領域。
己の身を燃やし尽くすくらいなら、そんなところへ辿り着かなくてもいい。
どうせ手など届きはしないのだから。
たった一人、大切なひとさえも守れないこの腕では。
だから。
どうか。
使命も誇りもない道でもいい。
腑抜けな道でも、のうのうと生きていけばいい。
愛するものの傍にいて、笑って生きていけばいいのだ。
そうして寿命を全うしてくれれば──
それだけで、いい。