第29章 あたら夜《弐》
「ッあ…!」
歯を立てられ、きゅうと強く吸われる。
指先での愛撫とはまた違う強烈な刺激に、蛍は視界でちかりと火花を散らせた。
仰け反る体に合わせるように、埋められていた熱い肉棒が角度を捉えて擦り上げてくる。
「っはン…! 一緒、はっだめ…ッ」
「ン…っ何を言う。こちらが寂しいと言ったのは蛍だぞ」
「そ、じゃなくて…っ下、も…っあッ」
「うん。絡み付いて離さない。ここが善いんだな」
胸への愛撫を途絶えさせることなく、よく知った蛍の絡み付く蜜壺へと自身を捻じ込んでいく。
吸い付く蜜の奥底にぴたりと押し当てれば、その吸引力に腰が砕けそうになる。
精を放ちたくなる衝動を抑え、小刻みに押し当てた腰を揺らした。
「はッ…ぁッあッ」
蛍の嬌声が色を変える。
喘ぐ感覚が狭くなり、陶器のような肌が赤らみ、しなやかに反り返った背が曲線美を描く。
はくはくと細い喉を鳴らして呼吸を繋ぐ姿は見覚えがあった。
蕎麦屋の二階でししどに快楽へと落とし濡らした蛍の姿だ。
("ここ"だ)
己の唇を舌で潤し、片手で腰をぐっと抱いて陰茎の当たる角度を固定する。
激しい律動でなくても、蛍の快楽のツボに当てればその身体は見る間に花開き蜜を垂らすのだ。
「ンぁ…! それ…ぇおかしく、なる…ッ」
「知ってる」
とちゅり、と重ねた着物の奥で優しい水音を立てる様が伝わるようだ。
優しく甘く、しかし溺れるしかないツボだけを陰茎で押し震わせながら、胸の芽に歯を立てて。杏寿郎は甘い言葉を吐いた。
「俺と共にひとつになっているだけだ」
「ひゃぅ…ッ」
「俺は蛍とひとつになれて、とても気持ちがいい…っそうだろうっ?」
「はン…! っあ…きもち、ぃぃ…ッ」
「ああ」
「きもち…っふあッぁ!」
柔らかく弧を描いていた杏寿郎の口角が深まる。
この世の何もかもを置き去りにして、自分だけしか見えなくなる。
蛍が自分の色に染まる瞬間。それが堪らなく心地良く、また強烈な快感を生むのだ。