第29章 あたら夜《弐》
「千くん千くん、どうせなら千くんも欲しいもの槇寿郎さんに取ってもらったら?」
「えっ? い、いいんですか…っ?」
「そうだな! 俺はこのビスコが手に入ればそれでいい! 父上、ぜひ千寿郎の希望の品も撃ち落として下さい!!」
「なんで俺がそんなことを…」
「ちなみに千くんが欲しいものってどれ?」
「え、と……あれ、です…」
「…あれ?」
「あれ、か…?」
「おっ、坊ちゃん目が高いなぁ! あれはうち一番の景品だよ。一発や二発当てたところで撃ち落とせない代物だ」
「あんなもの取ってなんになる。欲しいなら買えばいいだろう」
「杏寿郎、あれって…貯金箱?」
「うむ。それも陶器製のものだな。撃ち落とすには至難の業だぞ」
「千くん、なんであれが欲しいの? 貯金箱なら確かに他で買えるものだし…」
「お菓子は、食べればなくなってしまいます」
「む?…そうだな」
「でもあれなら、なくなったりしないでしょう?…見ればいつでも今日の日のことを思い出せるかなって…」
「父上、あの貯金箱もお願いします」
「ぜひ取って下さい」
「な、なんだお前ら急に…」
「無理を言ってるのはわかっていますっだから父上に、その…無理にさせる気は…」
「父上ならできます。ぜひ!」
「槇寿郎さん、全集中です。全集中の呼吸を使えば陶器だってきっとゴムの弾で落とせるはず…!」
「だからお前らいい加減に──」
「はっはっは。坊っちゃんの願いでも、流石の親父さんも無理だろうなぁ。この貯金箱を落とせた者は過去一人もいない。諦めるこった」
「…なんだと」
「最初から負け姿勢満々だしな。さ、帰った帰った。次の客に回させておくれよ」
「っそんな貯金箱片手間で落とせるわ! 見ていろ!!」
「ち、父上…」
「おお! 流石父上です!!」
「ぉぉ…(店長さんも流石です)」