第29章 あたら夜《弐》
色とりどりの提灯が町角に並び夜空を照らす。
香ばしい匂いの漂う食べ物の出店から、お面やヨーヨー釣りなどの遊びの出店まで並ぶ先々。
太鼓の音や笛の音。どんちゃんと騒ぐ気配は不思議と騒音には感じず、浮足立つ。
「わあ…すごいっ夜の神幸祭ってこんなに賑やかだったんですね…!」
行き交う人々の波を見渡しながら、目をきらきらと輝かせたのは千寿郎だ。
夜の外出は、鬼殺家系の為に厳しく止められている。
特に槇寿郎が塞ぎ込んでからは、杏寿郎も鬼殺隊としての日々が忙しく、夜間遊びなどに連れて行ったことはなかった。
だからこその弟の姿に、兄も満足そうに頬を緩ませる。
「兄上あれ見てくださいっ鉄砲が並んでますっ」
「あれは射的だな。狙った商品を弾で撃ち落とせば手に入れられる、という遊びだ」
「射的…」
「する? 千くん」
「え、いいんですか?」
「うん。したいことや食べたいもの、全部私に言ってくれていいよ」
「姉上に?」
頸を傾げる千寿郎に、ふふんと胸を張った蛍が一歩歩み出る。
「今日はこれを持って来ましたっ」
「それは…?」
「なんの包みだ?」
じゃん!と効果音でも付けたげに懐から取り出したのは、紫の縮緬(ちりめん)生地で何かを包んだもの。
頸を傾げる兄弟二人に、胸を張った蛍が意気揚々と告げる。
「初めて自分が稼いだお金です。杏寿郎に頼んで下ろして貰ったの」
「! ああ、あれか」
包みは袱紗(ふくさ)だったことに、杏寿郎がぽんと手を打つ。
珍しく、というよりも初めて蛍から給与として与えられているお金が欲しいと告げられた。
静子への手土産を買う際にも自分の金を使っていた蛍だが、それでも財布の紐を握っていたのは杏寿郎だ。
そんな蛍だから珍しいこともあるものだと思ったが、この日の為だったことに全て合点がいく。
丸裸の紙幣をそのまま袱紗に包んでいるのだろう。財布らしい財布も買わずに手持ちの布だけで管理するところも蛍らしい。
それだけ金に興味はなかった蛍だ。
「今日は私がお金を出すから。千くんはしたいことを全部やっていいからね」
使用理由も彼女らしい、と微笑ましくなる。