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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第28章 あたら夜《壱》



 弾む空間は居心地がいいが、一層この場を賑やかにしてくれる声の大きな持ち主がいない。
 そわり、と辺りを見渡す八重美に蛍はすぐに気付いた。


「もしかして師範のことですか?」

「えっ…はい…杏寿郎様はお出かけですか?」

「いますよ。寝ているけど」

「そうなんですか?」


 てっきり姿が無いのは不在の為かと思っていた。
 ぱちぱちと睫毛の長い瞳を瞬く八重美に、蛍は当然の如く頷いた。


「連日、任務尽くしだったから。ほら、夜丸々起きてなきゃいけないでしょう? その疲れを取る為にも、ですね」

「任務と言うなら、蛍さんも…」

「私は鬼なので。眠らないなら眠らないで平気なんです。寝不足というものもないし」

「そう、なんですか?」

「はい」


 笑う蛍の顔は、確かに不健康そうには見えない。
 陽に当たっていない為白い肌を持つが、決して病弱な色味ではない。


「それは…」

「便利でしょ?」

「は、はい」


 思いはしたが、失礼かと飲み込んだ。
 それを見透かされたように笑顔で返される。

 綺麗だと思った。
 ただ屈託なく笑う蛍には、八重美が感じた陰りなど一切ない。


「ということでっ師範がいぬ間に済ませましょう!」

「あっはい! そうですね…!」

「兄上がいぬ間?」


 声を上げる蛍に、一気に空気が砕ける。
 つられた八重美が、慌てて持って来ていた風呂敷を掲げた。
 重箱のような四角く包まれた風呂敷の中には、一体何が入っているのか。


「それも女子の秘密というものですか?」


 興味はあるが、またはぐらかされてしまうのだろうか。
 恐る恐る声をかける千寿郎に、蛍は笑顔で手招きをした。


「千くんも見ていく? 退屈するかもしれないけど」

「! はいっ」


 退屈などと。蛍と共にいられるならなんだって楽しいのだ。
 ぱぁっと花を咲かせたように顔を輝かせると、千寿郎は返事一つで頷いた。

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