第28章 あたら夜《壱》
「配属地でない場での任務、ありがとうございます。私も夜の間は村全体を守りますので。もし鬼を見かけたら鴉か、声を出して知らせて下さい。飛んでいきます」
「そ、っか…それは、助かるよ…」
「はい」
「…あれ? さっき其処にいた…」
しどろもどろに野口が対応している間に、ふと村田は蛍が乗っていた立派な土佐錦魚がいないことに気付いた。
つい先程、空を浮遊していたというのに。
「あれは影鬼の一つです。必要ないから消しました」
同じく空を見上げた蛍が、笑顔で村田に返す。
「凄いな、あんな空飛ぶ魚まで作り出せるなんて…」
「…最近、見つけた能力(ちから)なので」
「へえ。どんな能力なんだ?」
「それが私も、まだ不明なところが多くて…」
「そうなのか? なんで?」
「ええと…」
興味津々に尋ねる村田に、蛍の方が押されている。
相手は鬼だというのに、話せば随分と普通の女性のようだ。
野口は自然と肩の力が抜けるのを感じながら、村田の肩を肘で小突いた。
「なんだお前、随分態度が大きいじゃないか。水柱様の前とじゃ天と地だな」
「な…ッ変なこと言うなよ!?」
「水柱?って義勇さんのことですか?」
「義勇さん?…そっか、君は…柱とは結構関わりあるのか」
「彩千代でも蛍でも気軽に呼んで下さい。野口さん」
「えー…と…じゃあ……蛍さん?」
「はい」
「お前こそ馴れ馴れしくないかっ?」
「好きに呼んでいいって言われたんだ、別にいいだろっ?」
今度は村田が野口の肩を小突く。
そんな二人のやり取りにくすくすと蛍は頬を緩ませた。
「それで、もしかして義勇さんも此処に来ているんですか?」
「ああいや、こいつが水柱様の同期で」
「義勇さんと?」
てっきり義勇と会えるのかと期待をしたが違ったらしい。
しかし肩透かし感を喰らう前に、蛍は別の興味を持った。
村田の現鬼殺隊での階級は"壬(みずのえ)"。
下から二番目である。
最上級の柱の階級を持つ義勇とは、正に天と地の差。
その村田が義勇と同期だと言うのだ。