第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
しかし心を見透かされた訳ではない。
何をも見通すような金輪の双眸は、今は細く緩めて愛おしげに見つめてくるだけだ。
蛍の心の躊躇を、杏寿郎は易々と越えただけだった。
「硝子越しに感じるものではなく。実際に肌に感じて、その目で見て、知る。そんな朝日を」
「……」
「見に行こう。共に、人として」
いつになるのか。
果たしてそんな日はくるのか。
そんな不安など一欠片もない。
柔い笑顔で、愛に満ちる声で、希望を見据えた瞳が告げる。
進む先には、その未来があるのだと。
「…っ」
ふるりと、牙を持つ唇が震えた。
テンジのように、心も体も子供のままではいられない。
鬼となった時点で既に成人していた身だ。
元より子供のままではいられないと、人間の頃にも早々大人の道を歩んだ。
だからという訳ではないが、蛍が現実的な思考を持ってしまうのは仕方のないことだった。
──それでも。
「…じゃあ、その時は」
「うん?」
噛み締め、告げる。
かける声が震えないように。
哀しい話をしているのではない。
希望ある未来の話をしているのだから。
「杏寿郎が一番好きな朝日を、見せて」
口元に弧を描き、わらう。
濡れた緋色の瞳の先には、共に見たい未来がある。
「──うむ!」
その瞳に映る世界を見つけて、杏寿郎は声と顔に花を咲かせた。
この世は悪鬼が蔓延る世界。
だからこそぬるま湯には浸かっていられない。
元より曖昧な夢物語を語る気はない。
ここが適者生存の世界だと言うのならば。
「一等綺麗だと思う朝日を蛍に見せよう!」
すべてをこの手に掴んで
現実にするのだ。