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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓



「私は、杏寿郎と人間に成る道を目指したの。簡単な道のりじゃないこともわかってる。だから今の私が持つ〝鬼〟の部分も、利用できるなら全部利用する。杏寿郎と同じ時を生きる為なら、何度だって再生するこの体も都合よく使えるよ」


 完全に傷の消えた手首越しに、凛と告げる。


「そのお陰で、槇寿郎さんとも今の関係が築けたと思っているから」


 鬼であるが故に、一度は死を迫られた。
 しかし鬼であるが為に、朽ちかけた体を蘇らせて槇寿郎と対話する現在(いま)に至る。


「鬼じゃなかったら…って、何度も考えたことはある。でも考えるだけ、無いもの強請りを悟るだけ。…結局私は私でしかないから。今以上も、以下もない」


 最初は、自分は「所詮」鬼だからと腹に抱えて告げていた。
 しかし今は違う。
 鬼「だから」できることがあるのだと。その道を自然と模索するようになった。


「だったら今の私ができる道を探した方が、余程有意義な時間の使い方。この体は何度だって立ち直れる。杏寿郎が不満に思うことがあるなら、遠慮なくぶつけてきていいよ。受け止められるし、怪我もしない。──私は鬼だから」


 それはひとえに鬼であることも丸ごと受け入れ抱えてくれた、目の前の彼のお陰なのだ。


「……それでも、心は傷付くだろう」


 静かながらもしかと届く声で告げる蛍に、しかし杏寿郎の顔は晴れなかった。


「身体は治っても、心は違う。鬼である君には、心の治りの方がいつだって遅いんだ」


 だから健全な体で笑う蛍が、時折儚く見えていたのだと。心を置き去りにして笑っていたのだろうと、苦い顔で告げる杏寿郎に、鮮やかな緋色の目はぱちりと瞬いた。


「何言ってるの。傷付いたりなんてしないよ」

「それは君がそう錯覚しているだ」

「杏寿郎だから」

「けで……俺、か?」

「うん。杏寿郎から貰うものなら、拳にだって意味があるものだってわかってるから。杏寿郎のことだから、わかる。それくらいで傷付いたりなんてしない」


 見つめる蛍は当然のように。緩く頸を傾げつつ、曇りのない澄んだ瞳を向けた。


「私と杏寿郎の関係は、そんなことで揺らぐようなものじゃないでしょ?」

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