第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
ピピピ、チチチと野鳥が鳴く。
肌を温める陽は優しく、秋の空気には心地良い。
縁側に胡坐を掻いて座り込んだまま、杏寿郎は深く息を繋いだ。
「平和ボケしてんなァ」
思わず脳裏を掠めた言葉を口にしたのは、己ではない。
うとうとと落ちかけていた瞼を開いて横を見れば、同じく縁側に座り込んでいる実弥の横顔が映り込む。
「確かに。睡魔に襲われそうだ」
ふ、と杏寿郎の口元が和らぐ。
対象的に、実弥はうんざりした顔でこきりと頸を鳴らした。
「一体いつまでこんなことしてりゃァいいんだ」
「医者が言うには、丸一日はこうしていろと」
「大袈裟過ぎねェか? 後遺症なんてモンもねェだろォ」
「だが上弦の鬼の術を喰らったのは確かだ。用心に越したことはないのだろう」
昨夜、夜のうちに煉獄家の戸を叩いた医者が、全員の容態を診て回った。
藤の家紋を背負った医者は、鬼による怪我の症状にも詳しい。
それでも上弦の鬼相手、ましてや氷を使った術というものは初めてらしく。念の為に杏寿郎と実弥には一日、陽光に体を晒し続けろと命じていった。
「それを言うなら、一番の重傷者はアイツだったじゃねェか」
「ああ、蛍なら──」
トタトタと、廊下を小走に走る音が重なる。
つられるように振り返った、部屋の襖が空いた先。
其処に小さな体が、ひょいと現れた。
「あっ」
ぱちりと重なる視線に、幼い声が上がる。
部屋の中へと踏み込んだ小さな足が、陽の差す手前で止まった。
「ここにいたの」
「うむ。今日は一日、不死川と日光浴だ!」
「つーか、お前なんだその恰好」
胡坐を掻いた膝に頬杖を付きながら告げる実弥の目には、幼い少女が映っている。
齢四、五歳といったところか。
「ああ、うん。ちょっと」
「姉上!」
幼い見た目にしては、ばつが悪そうな大人びた表情で蛍が頭を掻く。
そこへ後を追いかけてきた千寿郎が、部屋へと踏み込んだ。
「急に走らないでくださいっ」
「わあっ」
「心配しますから」
「ご、ごめん」
ぴょこぴょこと後頭部で結ばれた髪先を揺らしながら、千寿郎の両腕が蛍を後ろから抱き上げる。