第26章 鬼を狩るもの✔
「では彼らを"この姿"のまま、生かし続けると?」
辺りを見渡す。
闇で何もない空間のように見えるが、先程とは確かに一変した。
暗い闇の底で蠢く何か。
それは人をも喰らう、無数の鬼達だ。
(杏寿郎さん…テンジは、童磨の言う鬼とは少し違う気がします)
(と言うと?)
(この子達は、人を喰らわない。それは不思議とわかるんです。…私も、鬼だからでしょうか)
杏寿郎の危惧することを読み取るように、柚霧はやんわりとそれを否定した。
(だから、一緒に生きていけると思ったんです。私が杏寿郎さんと、共に生きることを望んだように。この子もきっと、人と共に歩むことができる)
膝に頭を預けて甘えるテンジに、残された手で優しく触れる。
歪な目元を愛情を含んだ瞳で見つめて、頭皮が剥き出した頭をあやすように撫でる。
柚霧にとって、テンジの姿や鬼であることは問題ではなかった。
今この場に確かに存在する子供達は、童磨のように人間を餌として見てはいない。
それこそが重要なのだ。
だからこそ未来を望める。
柚霧が鬼だからこそ、その言葉には重みがある。
唇を結んだまま言葉を呑み込んだ杏寿郎は、眉間に深い皺を刻んだ。
(……酷だな)
柚霧に向けた言葉ではない。
己の感情の中で吐露した言葉だ。
しかしそれも意思が繋がっている彼女には拾われて、頸を傾げられた。
(鬼として人と歩む道が酷なのですか? それなら私も)
(そうではない)
この世は浮世だ。
だからこそ命というものは尊く、幸福というものを皆噛み締める。
テンジもまた浮世に与えられた非道な人生を歩んだが故に、こんな姿に成り果ててしまった。
(柚霧が彼ら越しに見たものを、俺も見た。君が感じたものを、俺も感じた。だからこそ悟ったことがある。鬼ではなく、人間として)
柚霧がテンジに絶え間ない愛情を覚えたように。
杏寿郎もまた、他の鬼とは違うテンジにだけ感じたものがあった。
「その子供達は、人間の世界では生きられない」