第26章 鬼を狩るもの✓
「あ、あんたこいつの知り合いだろッ? 助けてくれ! いきなり腕を折られて」
「ァあ?」
それでも実弥の方がまだ理性的に見える。
胸倉を掴まれたまま助けを乞おうとすれば、途端にドスの利いた声を向けられた。
「俺に話しかけんじゃねェ。その口削ぎ取るぞ」
杏寿郎に向けていた冷静な態度とはまるで違う。
怒りに満ちた血管を額に浮かせ、血走る目で睨んでくる様は、杏寿郎とは違う迫力がある。
ひゅ、と喉が恐怖で震えた。
固まる与助には一切構わず。ふと指差すと、何かを思い出したように実弥は杏寿郎に告げた。
「そういやコイツ、瀕死の柚霧を笑いながら土に埋めようとしてた野郎だ。人を殺すことをなんとも思っちゃいねーよ。騙されんなァ」
「…ほう」
「っ!?(なんで知って…ッ)」
杏寿郎の声色が、更にひとつ下がる。
「やはり救いようのない屑だったか。斬首一択だな」
「ひ、ひィ…ッ」
口角は瞬く間に下がり、見開く双眸は一欠片も笑っていない。
呼吸を塞き止める程に強く胸倉を掴んでくる手に、与助は半ば涙目にか細い悲鳴を上げた。
「気持ちはわかるがよォ、それ以上はやめとけって。でなけりゃ、あのお譲さんが最悪倒れちまう」
「?」
ぐ、と強めに肩を握る。
実弥が目線で促した先には、口元を押さえてこちらを見つめる女性が離れて立っていた。
実弥に声をかけられた時以上に、杏寿郎の顔が驚きに満ちる。
「八重美さん…!」
其処に立っていたのは、間違いなく杏寿郎の記憶にある伊武家の一人娘だったからだ。
「ご無事でしたかッ」
「っげほ…!」
ようやく与助の胸倉から手が離れる。
そのまま駆け寄る杏寿郎に、青い顔をしながらも八重美は恐る恐ると口元の手を下ろした。
「杏寿郎、様…」
「お怪我はっ?」
「ぁ、だ、大丈夫です」