第25章 灰色万華鏡✔
カカカッ! カカンッガカッ!
竹を割ったかのような、鋭くも曇りのない音が響く。
反響させているのは、道場の中心で対峙し合う二人。
弟の千寿郎と剣技を交えていた時のような、心地の良い木刀のぶつかり合いではない。
次々と容赦なく打ち合う木刀の打撃音は、その激しさを物語っているようだ。
「オラどうしたァ! 威勢がいいのは口だけかァ!?」
隙のない連打で押し切っていたのは風柱の実弥だ。
右へ左へと相殺するように受けた木刀でいなしながらも、杏寿郎の足場は押されていく。
「ッ…なんの!!」
触発されるように、カッと炎のような双眸が見開く。
滑り込ませるように上半身を伏せて低い位置から実弥の懐に飛び込むと、杏寿郎は呼吸よりも速く横一線に得物を振るった。
間一髪仰け反り避けた実弥の、胴着がぴしりと裂ける。
木刀で布を断ち切る程の気迫に一瞬目を見張るものの、すぐに口角をつり上げ実弥は笑った。
「面白れェ!」
一般隊士との稽古など、たかが知れている。
やはり相手が柱でないと面白味もない。
一打一打が鋭い剣捌(けんさば)きを、今度は実弥が受けていく番となった。
杏寿郎とは違い、いなすことなく抗い押し切ろうとするものだから、せめぎ合った木刀同士がギシギシと悲鳴を上げる。
──バキンッ!
「「!」」
剣の道筋さえ視界に置いていく程、二人の目で追えない剣捌きに先に限界を向けたのは木刀の方だった。
力と力がぶつかり合い、へし折れた木刀の先が宙を舞う。
両者の得物の破壊。
これで手合わせは終わりかと思いきや、折れた木刀を放り捨てた杏寿郎の手が実弥の帯を鷲掴んだ。
「んな…ッ」
目の前で貫いてくる二つの双眸は、気迫に満ち満ちている。
逃がさないと言わんばかりの殺気立つ金輪に、実弥の額にもみしりと血管が浮いた。
そうこなくては。
「いいぜェ来い!!」
嬉々として狂気的な笑みを浮かべたまま、殴り掛かってくる拳を迎えるべく吠えた。
「──はぁ…ッ……すまん…」
「はァ…っ? 謝んなら最初からすんじゃねェ…」
木刀での打ち稽古から、拳を交えた無差別稽古へと変わって数時間。
夕日が道場へと差し込む頃には、息を乱し仰向けに倒れ込む二人がいた。