第24章 びゐどろの獣✔
「にしてもまさか腕一本で神輿を押し上げるたァ、やるなァ杏ちゃん」
「仕事柄、鍛えているもので。神輿渡御の邪魔をしてすまなかった」
「んなこたぁねぇよ。どうだい、折角だ。杏ちゃんも担ぎ手をやらねぇかい?」
「む?」
「えっ」
「兄上が?」
唐突な葵屋の誘いに、三人三様で驚く。
「その腕前を放置しておくのは勿体ねぇしよ。担ぎ手は希望すりゃあ大人も子供もなれるんだ。どうだい」
「ふむ。成程、興味はある」
「折角だし、やってみたら? 杏寿郎の担ぎ手姿、見てみたい」
「私もですっ兄上の腕ならきっと迫力ある神輿渡御ができますよ…!」
肯定的な二人の反応に、改めて己の顎に手を当てて考え込む。
より目が止まったのは、きらきらと輝く瞳で告げる千寿郎だ。
幼い頃から一緒だった。
故に少年の神幸祭への期待と憧れも知っている。
「葵屋の主人。大人も子供も参加できると言ったな」
「ああ」
「ならば一つ、希望がある!」
頷く葵屋に、杏寿郎が出した答えとは。
「──ほ、本当に私もやるんですか…」
「うむ! とても似合っているぞ!」
「うん。千くん、なんだかいつもの可愛さに男前さが増した感じ。二人共似合ってる」
「そ…そう、ですか…?」
ぱちぱちと小さく拍手を送る蛍に、千寿郎の頬が赤く染まる。
"祭"と背に書かれた白い半纏を着る杏寿郎と同じく、千寿郎も子供用の半纏を着込んでいる。
下は黒い股引(またひき)に地下足袋(じかたび)。
すっかり担ぎ手としての姿に変わった二人に、蛍も表情を弾ませた。
「でも担ぎ手のいろはなんて何も知りませんし…」
「神幸祭のことはよく知っているだろう? それで十分だ。千寿郎なら日頃鍛えてもいるし、必ずできる!」
杏寿郎が希望したのは、千寿郎と共に担ぎ手に参加することだった。
神輿は大人が担ぐものの中に、子供用の幾分小さめの神輿もある。
勿論、子供達だけでは危険も伴う為、大人も保護として担ぎ手につく。
そこに杏寿郎は立候補したのだ。
「それに兄は千寿郎と共に担ぎ手がしたいんだ。俺の希望を叶えてくれないか?」
そんなことを言われれば断れるはずもない。
笑顔で差し出される杏寿郎の手を、おずおずと小さな手が握り返した。