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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



「よく話せたもんだと呆れただけだッ」

「そうだな。だが話してくれた」

「チッ…お前はアイツのなんなんだ」

「む?」

「師か思人(おもいびと)かどっちの面だァそれは」


 杏寿郎が蛍を特別視していることは知っていたが、恋仲であることなど知る由もない。
 杏寿郎本人や天元や小芭内などの周りからそういう空気はなんとなく感じていたものの、実弥自身そういうものには興味を持たない性格だった。

 他人の恋路など、ましてや人と鬼との恋など考える必要もなく、当然として交われないものだ。
 そう信じていた。

 今までは。


「どちらもだな! 蛍を導く師でありたいと思うし、蛍を支える妹背でもありたいと思う!」


 だが目の前の男は、迷う素振りなど一つも見せずに笑うのだ。
 有言実行してきた杏寿郎だからこそ、その言葉通りに蛍に歩み寄ったのだろう。
 鬼の蛍のことを深くは知らずとも、柱である杏寿郎のことならよく知っている。


「…だから弟に姉なんて呼ばせてんのかァ…」

「千寿郎のことか? あれは千寿郎自身が呼び始めたんだ。俺が強制した訳ではないぞ」


 二人の関係には然程驚きはしなかったものの、千寿郎から歩み寄ったという事実には驚いた。
 言葉を失くす実弥に、はっとした杏寿郎がきまり悪そうに辺りを伺う。


「蛍に鬼殺隊内では安易に言いふらすなと言われていたな…不死川、今のは聞かなかったことに…いや不死川なら構わないな。憶えていてくれ!」

「どっちだァオイ」

「蛍は俺の為に、言いふらすなと言ってくれたんだ。人と鬼。鬼殺隊の中でどちらが責め立てられるかは、火を見るよりも明らかだろう?」

「……」

「だが今の不死川なら、蛍をそのことで責めはしないと思った。だから知っておいて欲しい。柚霧のことを認めてくれている、君にこそ」


 否定は、先程の反射のようには出てこなかった。
 実弥自身その理由もわかっていた。

 蛍を見る目が、柚霧を認めてから変化したからだ。
 ただの鬼ではなく、一人の個として。

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