第24章 びゐどろの獣✔
「女中さんの傍にはないけれど、静子さんの傍には見えます。凄く薄らとだけど…八重美さんの色」
「色…? 何を言って」
「蛍は、人の持つ特有の色が見えるんです」
「杏寿郎さんまで何を仰って…そんな面妖な」
「面妖でしょうか。鬼殺隊の中には、鬼殺の為に様々な能力(ちから)を会得した者が多く存在します。蛍もその一人。鬼を辿るのに、色を追ったこともあります。…俺が保証します。どうか彼女の能力を信じてあげて下さい」
「ぉ…お願いしますっ」
深々と頭を下げる炎柱には、流石の静子も否定はできないようだった。
渋々と口を結ぶ静子に、蛍も頭を下げる。
「八重美さんは、とても優しい色をしています」
まっさらな白に近い、薄い薄い桜色。
簡単に他に染まれる色ということは、それだけ幾重にも感情を染められる豊かな人ということだ。
「出会った時間は短いものでしたが、八重美さんの心根の優しさは、私にも伝わりました。…その色が、この家で見えるのは静子さんの傍だけです」
よくよく目を凝らせば、ほのかに静子の傍に桜色は舞っているのだ。
まるで散りゆく花弁の最後の名残りのように。
はらはらと消えつつあるそれは、本当にこの世から八重美という存在を奪っているような奇妙な感覚をもたらした。
「私は、お二人の関係性を知りません。ですが繋げられるだけの色があるのは、それだけ絆を繋いでいたからではないんでしょうか」
蛍から見ても娘に厳しい静子だったが、そもそも負の感情があれば躾などに目もかけはしない。
それだけ、そこには静子の思いがあった。
蛍と姉とは形が違うものの、二人もまた確かに家族だったのだ。
「思い出して下さい。静子さん」
顔を上げて訴える。
蛍のその姿が、一瞬何かと重なった。
「っ…?」
額を押さえて、静子は眉を顰めた。
頭痛がした訳ではない。
体調が優れない訳でもない。
ただ、喉の奥に小骨が閊えるような、奇妙な引っ掛かりを覚えたのだ。
淡く、柔く、ささやかな主張しかしない桜色。
『この黄色のワンピースにしましょう。顔も明るく見えますし、 さんによく似合いますよ』
『…はい。お母様』
告げた先の誰かの顔が、霞んで。