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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



 さらりと心地良い風が吹く。
 日陰では肌寒さを感じるものの、鬼の肌にはどうということはない。
 爽やかな風に髪先を遊ばせつつ、蛍はぱらりと本の頁(ページ)を捲った。


「よし、と…千くーん。こっちは一通り終わったよー」

「ありがとうございます」

「そっちは? 重いものでもあれば運ぶよ」

「大丈夫です。姉上が全て棚出ししてくださったので、後は並べるだけで」

「なら、外に干すものは?」

「それは兄上が」


 日なたを避けつつ、広い煉獄家の廊下を通る。
 辿り着いた一室を覗けば、一面に着物を並べて干していた千寿郎が振り返った。

 「兄上」と言って千寿郎が視線で促す先は中庭。
 其処には何枚もの畳が重ならないように、縁側で並べ立てられていた。

 成程と頷いて本人を捜してみるものの、見当たらない。


「その杏寿郎は?」

「普段使っていない部屋の畳もまとめて干すと、取りに行きました」

「まだ畳あるの?…本当に、大きなおうちだねぇ」

「代々煉獄家の屋敷として受け継がれてきたものですし。時を経ていく間に、大きくなっていったんでしょう」

「それだけ代々の煉獄さんが、立派にお務めを果たしていたってことだね」

「だとしても、親子三人で暮らすには十分過ぎる広さだとは思いますが」


 そう笑う千寿郎の立つ部屋の中には、至る所に着物が影干しされている。
 別部屋では蛍が頁を開いて干している本の山。そして中庭には幾枚もの畳。
 それでも自由に使える部屋は優にあるのだ。


「これだけ広いと物も多いですから。虫干しをするだけでも一苦労です。だから助かりました。兄上と姉上のおかげで、手早く済みそうです」

「寧ろそんな大がかりなこと、まさか一人でやってたなんて。これからは必要な時には呼んでね。鎹鴉を飛ばしてくれれば、それこそ飛んで帰るから」

「ふふ。姉上、兄上と同じようなこと言ってます」

「そうなの?」

「兄上は本当に、緊急と思えば飛んで帰ってくる人ですから。姉上のそんな姿も想像できてしまって…ふふふっ」


 くすくすと思い出し笑う千寿郎に、つられて蛍も頬を緩める。

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