第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
先程の続きをと言うかのように、白い頸に再び唇を寄せる。
「柚霧だけの俺であって欲しいと君は言ったが、それは俺も同じなんだ。…もうこの体を、他の男の誰にも触らせたくはない」
「ん…っ」
首筋に、鎖骨に、胸元に。
一つ一つ優しく口付けていく。
その度にぴくんと肌を震わせ吐息を零す柚霧が、愛おしくて。
同時に狂おしい程の嫉妬に駆られる。
こんなふうに数多の男も彼女の肌に触れたのか。
こんなふうに彼女に甘い吐息を奏でさせたのか。
身売りをしていた、という事実をはっきりと柚霧の口から聞いた時、驚きと共に生まれた感情が"それ"だった。
金でその体を買い、好きに蹂躙した男達がいたのだ。
その中には、蛍が恥ずかしげに吐露した、あの後孔を責め立てた者もいたのだろう。
自分の知らないところで、自分の知らない快楽に溺れた柚霧。
想像するだけで体中を巡る血液が沸騰しそうになる。
「狭量な男と呆れてくれてもいい。戻れもしない過去に嫉妬するなど──」
「杏寿郎、さん」
少し力を込めれば、簡単に崩れてしまう着物の裾を強く握る。
その手に、やんわりと細い指が触れた。
「跡を、つけて下さいませんか」
「あと…?」
「杏寿郎さんのものだという、証の跡を」
杏寿郎の手を留めると、自ら着物の袖を引く。
肩からするりと落ちるそれは帯に辛うじて引っかかると、柔い二つの乳房を隠す役割を放棄した。
そっと手で晒された胸を隠しながら、柚霧が静かに顎を引く。
「今まで体に触れた殿方に、跡を残させたことはありません。…杏寿郎さんにだけ、お願いしたいんです」
一日に何人もの男に抱かれることもザラだった。
故になるべく情事の痕跡は残さないように、跡を残すことだけは断り続けた。
肌が弱いから、などとそれらしい理由をつけて男達が喜ぶ奉仕をすれば、すぐに彼らの欲は満たされたものだ。
「私に、消えない跡を下さい。この体は、そういうものもすぐに治してしまうけど…」
最後に柚霧が尻窄みさせたのは、鬼の体故だということはすぐに杏寿郎も理解できた。