第22章 花いちもんめ✔
「安心しろ、蛍はなんともなってねぇから。看板の後ろに隠れてるだけだ。ありゃ群がる男共に疲れ果てたな」
「…そうか」
短い返事だったが、柔らかな声には安堵の空気が伝わってくる。
今度は口元に笑みだけを添えて、天元はひらひらと片手を振った。
「それよか千坊の方はどうなんだよ。変わりねぇか?」
「そうだな、今のところは。蛍のように声をかけて来る者も…?」
「? どうした」
「いや…千寿郎が何かを見つけたみたいだ」
「何か?」
杏寿郎に習うように、ひょいと天元も街並みを覗き込む。
煌びやかな人通りの中でもより目立つ、焔色の小さな頭。
市松模様のリボンを付けたそれは、そわそわと一ヶ所でとどまっていた。
「何してんだ?」
「わからん。だが今まであんな動きは見せていなかった。何か見つけたと思うのだが…」
「何か、ねぇ…その何かって何よ」
「それがわからないと言っているんだ。もしかしたら不審者を見つけたのかもしれないな」
「不審者?………ああ、」
千寿郎が向ける目線の先へと目を凝らせば、成程と言えるような人物を天元は見つけた。
女が一人、男に言い寄られている。
先程、蛍相手でもよく見た光景だ。
「ありゃ此処じゃ不審者じゃなく日常光景だ。千坊には刺激が強過ぎたか」
「確かに千寿郎はまだ幼いが、心は体と共に鍛えている。任務とわかっている以上、目的を遂行しようとするはずだ」
「けどお前と似て正義感みたいなもんも強いだろ。初対面の俺に向かって喰ってかかって来たしな」
「あれは宇髄が悪い」
「あーハイハイ。俺が悪うございました。で、どうすんだ」
「もう暫く様子を見ても──」
「お」
二人が暫し傍観と決めかけた時、動いたのは千寿郎だった。
意を決したように踏み出すと、女へと執拗に絡んでいた男の袖を掴む。
驚いたのは男だけではなかった。
杏寿郎と天元もまた、千寿郎の行動に目を見張る。
「おい。千坊の奴、男を見せに行ったぞ」
「うむ…」
「だがあれで男だってことがバレりゃあ、囮任務が台無しだ」
「待て宇髄。千寿郎にも考えがあってのことだ」
身を乗り出す天元の腕を、杏寿郎が掴む。