第19章 徒花と羊の歩み✔
「そうだな。先程まで父上も蛍を認めて、酒の席を共にしていたんだ。その名残りを俺も頂こう」
「じゃあ折角だし。昼、一歩杏寿郎が進めた記念と。夜、一歩私が進めた記念で。二人の…その、歩む先に…お祝い、とか」
ぽそぽそと恥ずかしげに告げる蛍に、杏寿郎の顔が尚も綻ぶ。
愛らしい。と思うことはよくあれど、その境を蛍は不意をつき越えてくる。
人ではない心で、誰より人を思いやる心遣いを持って。
そんな蛍を見ていると、腹の底から愛おしさで満たされていくような気になるのだ。
「うむ。ならば、二人の未来に」
「…うん」
かちん、と杏寿郎の方から寄せられる杯同士の口付け。
やんわりと微笑む杏寿郎の笑みにつられるように、蛍も綻び笑う。
その甘くも柔い空気を煙たがるように、一羽の鎹鴉は縁の下に逃げ込んだ。
「しかし蛍は清酒も飲めるようになったのか?」
「うーんどうだろ…味わえは、したから。もしかしたらいけるかもしれない」
「よもや…どんどん酒好きになっていくな…」
「柱会の皆の飲みっぷりに比べればまだまだです」