第17章 初任務《弐》
深い臙脂色が混じる黒の隊服に、赫々(かくかく)と燃えるような羽織が映える。
列車内では問題を避けるべく隠していた日輪刀を腰に携え、杏寿郎は青い晴天の下で振り返った。
「行けるか? 蛍」
「う、ん」
目的地へと到着したあさかぜ号を後にし、共に駅を下りる。
日陰となっていた建物から恐る恐る踏み出した、蛍の頭には竹笠。
顎の下で紐を結わえ外れないようにしていても、その手はしっかりと竹笠を掴んでいた。
顔の下半分を覆った口布に、手元や足元も一切太陽光に触れないように紫外線対策用の布で隠してある。
故に太陽の下を闊歩しても無事であることは理解していたが、それでも初めて踏む土地に緊張は残った。
「不安なら手を貸すが」
「ううん。いい。自分で歩く」
何より季節は夏。
からっと乾ききった紫外線はいつもより強い。
鬼殺隊の土地でならその手に素直に甘えたが、それでもこの地へは任務遂行の為に赴いている。
甘える訳にはいかないと、頸を横に振り歩き出した蛍に、杏寿郎はうむと爽快に笑った。
「では行くとしよう!…と、言いたいところだが」
「?」
「何故その風呂敷を蛍が? 俺が持とう」
「いいよ。こんなに大きな荷物持ってたら、鬼と出くわした時に邪魔になるでしょ。私より杏寿郎の方が身軽でないと」
「しかしだな…」
「大丈夫。大事なものだってことはわかってるから、雑に扱わないようにする」
頸に風呂敷の口を巻いて蛍が背負っているのは、あの杏寿郎が持ってきていた大きな手荷物だ。
相変わらず中身は不明だが、扱いは重々心得ている。
鬼である為、運ぶことにもなんの支障もない。
きっぱりと頸を横に振り譲らない蛍に、帯刀した刀の鍔に手首をかけながら、杏寿郎は苦く笑った。
どうやら説き伏せるのは難しそうだ。
ならばと、すぐに切り替えた目は先の道を見据える。