第5章 春に出会った
あの日。
日柄がよく、温かい日だった。
その日の午後、
私は夕飯に使う野菜を買いに、少し出かけた。
「おやおや、千鶴ちゃんじゃないか。元気そうだねぇ。」
『こんにちはっ。』
八百屋のお婆さんに声をかけられ、
私は明るく返事をする。
「今日はどうしたんだい?」
『いえ、野菜が無くなってしまって。買いにきたんですよ。』
「なにをお探しかな。」
『えーっと、大根とネギと…』
「三ツ葉なんてどうだい?さっき穫れたんだ。みずみずしくて美味しいよ。」
『ホントですか?なら、大根とネギと三ツ葉をください。』
「ありがとねぇ。」
お婆さんは、一番美味しそうな野菜を選んでくれた。
『また来ますね!!』
「まいどー」
私は嬉しくて、笑顔でその場を去ろうとした。
向こうから全速力で走ってくる男に
全く気付かずに。