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文豪さんたちのお部屋

第1章 ひとつめのお部屋-江戸川乱歩


「乱歩さん、乱歩さん」


は事務員の制服を揺らし乍ら、僕の元へとやって来る。
大体1日に3度位だろうか。写真や個人情報の詰まったファイルを、差し出された僕の右手に乗っける。


「飽きないねぇ事件も。僕が居なければ存分に愉しめたのにね」

「そうかもしれませんね。乱歩さんの前では何の様な虚像も見破られて終いますから」


椅子の背凭れに殆どの体重を預け乍ら、に渡されたファイルをぱらぱらと捲った。事務机の上の眼鏡を素早く手に取り、ブリッジを上鼻に持ち上げた。


「見破る程のモノでもないねぇ此れは。子供の遊びにも成りヤしない。後此れ無駄な情報多過ぎ」

「…御免なさい」

「大丈夫、怒ってないよ。唯、此の程度が解らないようじゃあ世も末カモね」


僕は読んでいたファイルのポケットから、1枚の写真を抓み出すと、ひらひらを仰いで見せた。


「此奴だね、今回を仕出かした莫迦は。そうだなァ…証拠は差し詰め、自宅の押入れかな? 嗚呼、其れとも物置部屋かもね。共犯は居ないから存分に調査してって伝えといて」


数秒も写真と事件内容を見れば、此の階級(レベル)は御安い御用ってモンだ。
は僕の云った言葉をメモ帳に書き留めると、自分の机に戻って行った。電話を肩と頬で挟み乍らキーボードを打つ姿は、矢張り彼女は器用なのだと再確認させられる。

時刻はもう夕方だ。今日の依頼はもう無いだろう。
彼女は何処かに送るメール文を書き終えた様で、小さい欠伸と伸びをして居た。


「終わったのかい? 」

「乱歩さん。はい、今終わった処です」


手を降ろしたの頸に、後ろから手を廻す。
黒い髪からはふわりとシャンプーかリンスの薫りがする。


「乱歩、さん…っ」

「イチャイチャ為る(する)のなら他所でやってはくれませんか?」


太宰が苦笑気味に邪魔を挿む。
窓辺に寄り掛かる彼に、にやりと笑って見せた。
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