第8章 夏合宿2日目。
優しげな手が離れていく。布団に座っていたはずの私は、いつの間にか布団に寝転んでいた。そして目の前にはクロの顔。
『ちょっと…クロ。冗談にしてはやり過ぎ…』
クロから目をそらし起き上がろうと体を押すがビクともしない。それどころか両手を1つに束ねられて動きを封じられる。
『ねえ…クロ?』
「もう黙れよ…」
クロは低く唸ると私のTシャツを勢いよくたくし上げる。下着を見られた羞恥心で顔に血がのぼる。
『何してんのクロ!止めて!』
「静かにしてろよ…でっけえ胸……これ、誰にも触らせてねえんだろ?」
『…やだ』
「口答えできる状況かよ…」
そういうとクロは私の背中に手を差し入れ、ブラのホックを外す。
そしてブラを持ち上げる。
「こんないいカラダ…リエーフにやるのもったいねーよ。」
束ねられた手首が痛い。それなのに体に触れる唇は優しくて、それでいて怖い。
嫌だ…
嫌だ…
怖くて怖くてたまらなかった。
私を組み敷いてるのはだれ?
いつも冗談を言って笑いあってるはずのクロが別人に見える。
助けて
『りえ…ふ』
急に手首を握っていた手が緩む。
いつの間にか強く瞑っていた目を開けるとクロは私から降りて、いつもの顔をして笑ってる。
「お前さ、結局リエーフの名前呼ぶんじゃねーか。」
そういうとクロは乱暴に私の頭をぐしゃぐしゃと撫で、布団をばさりとかける。
「…………り………じゃ………………」
私に背中を向けたクロがぼそりと呟いたけど聞こえない。それでも振り向いたクロはいつも通りの表情、だった。
「悪いな。怖い思いさせたな。もう絶対しねえから安心しろ。」
そういうとクロは私の頭をぽんぽんと叩き、部屋を出ようとする。何か言わなければ、そう思うと私の唇は謝罪を紡ぐ。
『クロっ!……ごめ「俺謝られんの好きじゃねーんだわ。」
遮られた言葉に息を吐く。違う。今クロが言って欲しい言葉は謝罪じゃない。
『…ありがと』
「…おう。ゆっくり休めよ。」
私が小さな声でぽそり、呟くとクロは笑いながら手を振り部屋の戸を閉めていった。
私は乱された服を直すと、そのまま布団に潜り込み固く目を瞑った。
クロ、ごめんね。