第49章 さくら、ひらひら。
出席番号ラストの渡辺くんが終わり、本来は終了なんだけど…
「椎名ぁ、取りに来い。」
やっと私の番が来た。
教卓に歩いて行くと、ちらりと見える。
服装を地味目に抑えてきた母の姿。
父は…やっぱり来ていないみたい。
仕事、忙しいもんね。
でもいいの。
リエーフが見ててくれるから。
さすがに教卓の横にずっといるのは邪魔だとマサちゃんに文句を言われたリエーフは保護者の皆様に混じって後ろで見ている。
「椎名、本当にお前はいろんな意味で問題児だったよ。」
『ちょっとマサちゃんひどい。』
「まあ、聞けって。」
そう言うと、マサちゃんは私から顔を逸らしみんなに向かい話し始めた。
「椎名は入学してきたとき、この世の絶望を見たみたいな顔してた。
それが数週間したらそんとき副担任だった俺のところにすげー剣幕で詰め寄ってきたんだ。
こいつ、なんて言ったと思う?」
クロが「どうせ料理作れる部活作るとか何とかじゃあねえの?」と言うとマサちゃんは笑った。
「まあ、半分正解ってとこだな。
当時新任教師だった俺に調理室使えるように掛け合え、料理作らせろときたもんだ。」
うわ…恥ずかしい…
みんなも笑わないで…
「でも数日前まで死んだ顔したやつが必死に突っかかってくるんだぜ?
そりゃあ、俺だって一生懸命頭下げるわ。」
話が進むにつれ笑い声はなくなって、マサちゃんの声だけが教卓に響いた。
「でさ、やっぱり何言っても首を縦に振らなかった先生が沢山いたんだ。
こいつ、その先生の好物作って持って行くんだ。
校長なんか鯖の味噌煮が好きだからって定食作って持って行ったんだぜこいつ。」
ちょいちょい笑いに走るのやめて…マサちゃん…
「まあ、こいつのメシの味はみんなわかってると思う。
1学期夏休み前には許可をもぎ取って活動開始ってわけだ。」
マサちゃんは目を瞑り今までのことを思い出すようににかりと笑った。