第45章 ばれんたいんでぃ
世界が止まったような気がした。
隣の部屋のみんなの声も遠く感じる。
「お前しか目に入んねえ。だけど生徒だから、我慢してた。
卒業して、生徒じゃなくなったら言うつもりだったけど、それも叶わねえみたいだしな。」
持っていたコーヒーを窓辺に置いたマサちゃんは立ち上がり、私の目の前に立つ。
「幸せになれ。
いろいろ辛い思いしてきたんだ。
これからは自分のやりたいようにすりゃーいいんだ。」
『まさちゃん…』
「こういう時くらい名前、呼んでくれねーの?椎名は。」
『まさつぐ…せんせ…』
「そうそう。」
そう言うとマサちゃんは私の頭を撫でていた手を離すと…
ばちんっ!
『いだっ!』
「んな葬式みたいな顔すんな。冗談だってーの。」
おでこにデコピンをくらい、意地悪そうな顔でにやり、笑うマサちゃん。
「ほーら、さっさと片付けして帰れよー。俺だって仕事詰まってんだから。」
『…はーい。あ、そのクッキーマサちゃんにあげる。絞り出しきれいにできたんだからね?片付け終わったら呼ぶねー。』
そう言って自分の分のケーキを持つと準備室を出る。
そして私は残ったガトーショコラを一口で食べきると洗い物に向かった。