第4章 過去のトラウマ
中学も中盤に差し掛かったある日。家に帰ると珍しく両親が揃っていた。
『2人が揃ってるなんて珍しいね。どうしたの?』
「話があるの。将来のことよ?」
そう言って渡されたのは1冊のパンフレット。
「お前にはここを受験してもらう。」
たくさんの有名な医者を輩出してきた医科大学の付属の高校。確か昔、父が卒業した大学だって話は聞いている。
でも、ページをめくることなく私は父にパンフレットを突き返した。
『私、ここにはいかない。』
「どうしてだ。」
『医療従事者、確かにすごい仕事だと思う。でも、私は他になりたいものがあるの。だから、いかない。』
「じゃあお前は将来何になりたいんだ。」
そう問われ私は言う。
『料理を作りたい。料理を提供する側になりたい。』
近くで聞いているはずの、お手伝いさんに聞こえるように伝えた。
私の気持ちが安らぐのは料理を作っている時、料理を食べてもらう時。
私は両親に代わり私を育ててくれたお手伝いさんにそれをたくさんたくさん教えてもらった。だから、私としてはこの進路しかないとずっと考えていた。
しかし、両親はそう思ってはいなかったようだ。
「そんな誰にでもなれる仕事か。」
ひやり、と体に氷が突き刺さったような気がした。
『馬鹿にしないで!』
反射的に口から出たのは怒り。それほどまでに許せなかったのだ。大好きな人を侮辱されたことも、今まで構われなかったことも。
一度吐き出した怒りは止まらない。
『今までお父さんお母さんに逆らわずに全部言うこと聞いてきた。でもこれは違う。私の将来は私のものだ!あなたたちの自慢や見栄のために自分の将来を棒に振りたくない!』
そう言い切って顔を上げれば、両親の目は下等生物を見るような目をしていた。