第30章 私の…嫌いな人。
side灰羽
『…こんなとこ見せちゃってごめん…』
そう言って買い物袋を拾い上げる美優さんの顔は切なげで、真っ赤な頬が痛々しかった。
「美優さんちょっと待って⁈」
俺は買い物袋を受け取りキッチンに持って行くついでに冷凍庫から保冷剤を出し、お風呂の脱衣所から使っていないタオルを取ると玄関に戻る。
「はい。冷やす!」
タオルで包んだ保冷剤を渡すと素直に受け取る美優さん。
『…ありがと。』
美優さんは保冷剤を頬に当てるとゆっくり、ゆっくりとした動作で靴を脱ぎ、鞄を持ち歩きだす。
そのまま部屋に向かった美優さんの背中を俺は追いかけた。
どさり。
鞄を放り投げ、ベッドに沈み込む美優さん。
邪魔にならないよう俺はベッドの縁に座り込む。
『……ごめんね…リエーフ』
泣き出しそうな声に問いかける。
「何がですか?」
『変なとこ見せて…』
何も言えなかった。
言う言葉が見つからなかった。
『言ってなかったね。うち、こんななの。父親は医者で、母親は看護師。
2人とも愛人の家を渡り歩いてずっと帰ってこない。
父親は私を医者にしたかったみたいだけど調理師になりたいって私が言ったら、その時からずーっとあんな感じ。』
淡々と語る美優さんの声音は抑揚がない。感情が感じられない。
『幻滅した?家庭環境みて、嫌いになった?』
「なんでっ…そんなこと」
『だから隠してた。こんなこと言ったら嫌われちゃうから。私から離れていっちゃうから。』
涙を堪える声。
なぜだかわからないけど美優さんが消えてしまいそうで
俺はベッドに横たわる美優さんを抱き寄せた。