第30章 私の…嫌いな人。
父は口の端を上げ笑いながら近づいて来る。
「私が金を出さなければ生活さえも出来なくなるのにな。よくそんな口が聞けるな。お前は。」
お父さんは、私の目の前に立った。
ぱちいいいいいん!
乾いた音が私の頬を鳴らした。
強すぎる力に体はバランスを崩し持っていた買い物袋が地面に落ちた。
「美優さん‼︎」
「本当、あの女と同じだな。俺から金を毟るだけ毟りとって…俺には否定の言葉しか吐かない。」
顔を上げれば怒りを含んだような表情に背中が冷えた。
「そんなに俺が嫌ならさっさとこの家から出ていけばいいんだよ。
それができるのならな。」
冷たい視線に唇を引き結ぶ。
『………すみませんでした…』
結局いつもと同じ。私の抵抗なんてこんなもん…
「なんかおかしくないっすか?」
低く地を這うようなリエーフの声に慌てて振り向くと怒りの表情。
『リエーフやめて!私は大丈夫だから。』
「家庭の事情って奴に首突っ込むつもりはないし、貴方が美優さんのお母さん嫌いなのもわかったっすけど…だからって美優さんに暴力ふるっていい理由にはならない。美優さんを嫌っていい理由にはならないっすよ。」
父を睨みつけるリエーフは下手をすれば父に掴みかかりそうなほど殺気立っている。
『リエーフ…いいよ…私は大丈夫。』
「大丈夫な顔してないから言ってるんです!そんな辛そうな顔させたくないから言ってるんです!」
泣きそうだ…
リエーフの言葉に
気持ちに。
そんな気持ちを汲み取ろうともせず、パチパチと手を叩く音が聞こえてくる。
「いやぁ青春だねぇ。彼女を悪者から守る。若く無鉄砲だからこそできることだよ。」
「俺、アンタ嫌いです。」
「ストレートな物言い。悪くないよ。」
「褒めてんのか貶してんのかわかんないっすけどやめてください。」
「褒めているんだよ。そのくらい直球勝負で来てくれる方がこちらとしてはやりやすい。私の周りには嘘で塗り固めた人間しかいないからね。」
父は私達から視線を外しリビングに戻ると鞄とジャケットを持ち、戻ってくる。
「では私は帰るよ。美優、成績表を見た。内申点が上がっているようだな。そのまま励みなさい。」
『あ…ありがとうございます。』
「では失礼するよ。」
そう言って父は家から出て行った。