第30章 私の…嫌いな人。
side灰羽
「その呼び方は止めろと言ってるだろう。」
『ぁ、ごめんなさい…お父さん。』
これが、美優さんのお父さん。
でも、美優さん…明らかに怯えてる。
「美優、隣の少年は誰だ。」
美優さんの肩が跳ねた。隠せない動揺が伝わってくる。
『あ…学校の後輩「美優さんとお付き合いさせていただいています。灰羽リエーフと申します。」
俺は美優さんの言葉を遮り、そう言い切った。美優さんに掴まれた制服から震えが伝わる。
美優さんのお父さんは俺を値踏みするように頭のてっぺんから爪先までじろじろと見てくる。
一通り上から下までみるとある一点で視線が止まった。
俺の左手薬指。美優さんとお揃いで買ったペアリング。
俺の薬指と美優さんの薬指を見ると、美優さんのお父さんは、さも愉快そうに嗤った。
笑い声が家の中に響く。
「何が面白いんすか…」
目の前の男は口元を隠し、笑うことを止める。
そして嫌な言葉を口に出し始めた。
「男に首輪を買い与えたか…ほんとお前らは毛色の違う猫を集めたがるな…反吐がでるよ。」
『私はっ!そんなつもりは…』
「あの女も外の男ばかりだ…さすがあの女の血を引くだけのことはある。お前にはあの淫乱女の血が混じってるんだよ。」
『ちがっ!違う!』
叫びのような抵抗。
美優さんのそれをかき消すように、嗤う、嗤う
精神を削ぐような
抉り取るような
嘲るような嗤い。
美優さんはいつもこれに晒されてきたのか…?
実の父親にこんな…
「そうじゃなきゃ大事な大事な調理師の学校の試験前に男を連れ込んだりはしないだろう。」
こんな、貶められるような…