第30章 私の…嫌いな人。
”それ”を見たとき、呼吸が止まった。
玄関に、男物の革靴。
上質な仕立てのその靴は見覚えがある。
"あの人"が好んで身につけているアルマーニの革靴。
こんな時間になぜここにいるのか…
どうして…
そんなことを考えていたら後ろから声をかけられる。
「美優さん。荷物重たいっすよー。」
リエーフがいたのを忘れていた。今日は、今日は駄目だ。
あの人にリエーフを会わせちゃダメだ。
申し訳ないけれでリエーフには帰ってもらおう。
後ろを振り返り動揺を悟られないようにしながらリエーフの腕を引く。
『あ…ごめ…あのね?リエーフ、今日ね?』
「美優」
部屋の奥、リビングに続く扉からその声が聞こえた。
情けないけれど、その一言だけで体がびくりと跳ねた。
「何している。早く入ってこい。」
体を震わせながら部屋の中を覗けば私とよく似た黒髪。
しかし、私と違う癖のない髪を後ろになで付けた姿。
着ているスーツはアルマーニの一点もの。
そして、
私に向けられる、冷たい射るような目。
私はあなたのその目が
私を人と思わないようなその目が大嫌いです。
『パパ…』