第1章 わんことの出会い。
けんまのゲームを覗き込みながら待つこと数分。やっとリエーフが部室から出て来た。
「お待たせしましたー」
『リエーフ遅い。』
ごめんなさいとリエーフが私に謝るのを見ながらクロが部室から出てくる。
「わり。俺が待たせてたんだわ。」
クロが部室の鍵をかけながら答える。
「俺ら明後日から遠征だから”これ”よろしくな?」
そう言って渡されたのは1枚の紙。…ああ、買い出しのメモか。返事をしてメモを財布にしまい込むと帰宅しようと先を進むクロはニヤけながらこちらに手を振った。
「じゃあ俺ら先帰るわ。ごゆっくり。」
「じゃあね、美優。」
2人に手を振り姿が小さくなるまで見送っていれば、後ろからどーんと走る衝撃。肩に手を回され背後から抱きしめられる。
「美優さん!俺らも帰りましょー!」
『分かったから離して。』
肩にのせられた頭に手を伸ばしひと撫でするとふわりと香る爽やか香りが鼻先を撫でた。
『リエーフって香水付けてる?』
柔軟剤とは明らかに違う、前から気になっていた香りに関して問いかけると、リエーフは私から離れるとエナメルバッグを肩から下ろし中を探る。プリントや教科書でぐっちゃぐちゃの鞄から出てきたのは水色のファンシーなボトル。それは思春期の男の子が持つにはあまりにも可愛らしく思わず二度見した。
「匂いがよかったんでクラスの女子に教えてもらったんです!」
リエーフはスプレーのキャップを外し、自分の手首に1度プシュッと吹きかけると反対側の手首をすり合わせる。
その姿さえ様になってるから正直悔しい。
「どうぞ?」
手首を出され思わず顔を近づけ匂いを嗅ぐと、ふわりと爽やかなフレグランスの香りが鼻孔をくすぐった。
『いい香り…』
「でしょー!思わず付けてる女子に話しかけちゃいましたもん!」
『…これ自分で買ったの?』
「はい!」
これを持ってレジに並ぶリエーフを想像してしまう。
何だろう。違和感がない。
好きな香りに思わず口からこぼれ落ちるため息。
『いいなぁ…これ。』
「じゃあお揃いにしません?これも一緒に買いに行きましょう。」
お揃いかぁ。
あんまりお揃いとかしたことないけどリエーフとだったら嫌じゃない。
『…わかった。もう遅いから帰ろう?』
「はい!」
私の答えに元気に返事をするとリエーフは手を差し出してきた。