第1章 わんことの出会い。
『ほら、リエーフ帰るよー?』
結局あの後、休憩上がりのリエーフに体育館にいるように説得されたけれど、断って調理室に帰宅。片付けて再び体育館に戻ろうとしたところで、部活が終わって速攻お迎えに来たリエーフに拉致られ男子バレー部の部室前に連れてこられてしまった。
なんで私、男子バレー部の部室の前で佇んでるんだろう。
次々に他のメンバーが部室から出てくる中、私を待たせているリエーフは中々出てこない。
早く帰りたい。そう思うと同時に扉が開いた音がして振り返ると、そこにいたのはけんま。
『けんまー。リエーフは?』
「ネクタイないって騒いでる…」
『着替えの時ちゃんとしないから…』
「ねえ、美優…」
先に帰ってしまおうか、そう考えている最中に名前を呼ばれ、振り向けばじっとけんまが私を見つめる。
「美優はリエーフと付き合うの?」
突然のけんまの問いかけに私はびっくりしながら聞き返す。
『けんままでどうしたの。』
「なんか一緒にご飯食べたり、スキンシップ激しかったり…なんか、カップルみたいだから…」
『お昼食べてたの見たの?あの時2人きりじゃなくて友達いたよ?』
わたわたと弁解すれば、けんまはいつもの猫のような瞳で私をじっと見る。
「でも美優…リエーフに構われて、嫌がってない。いつもなら男子に構われると…すごい嫌がるのに…」
たしかに。言われてみるとそうだ。
男子が苦手だから慣れ親しんだバレー部以外の男子に構われると咄嗟に睨みつけてしまう。
でもリエーフは人のパーソナルスペースにズカズカ入ってきて警戒する時間も与えさせてくれない。
リエーフはぽかぽか、お日様みたいで、キラキラな瞳で見つめられたりぎゅって抱きしめられると戸惑いと同時に安心する。
それはなぜだろう。少し悩んで、ぽそり、言葉を紡いだ。
『リエーフは男子っていうより…大型犬って感じだからかな?
だから苦手じゃない…のかも。』
私はちょっとだけ気持ちを誤魔化した。
胸に宿ったこの気持ちを他人に知られたくなかったから。