第17章 夏合宿、最終日。
その場で上を見ると少し呆れたような蛍の顔。
『なんで蛍がいるのよ。』
誰が付いてきているかわからない恐怖から解放された安堵感から長く息を吐く。
「もしかして…怖かったんですか?」
少し意地悪な顔で笑う蛍を見つめれば私は安堵の表情を浮かべる。
『そりゃあ怖いよ…でも蛍でよかった。』
それは一瞬だった。
腕を引かれて壁に押し付けられる。横にいたはずの蛍は目の前、後数センチで触れてしまうくらい近くにいる。ドンと顔の横に手をつく音が耳に響く。
これはあれですか。女子に人気だという壁ドンじゃないですか。
壁ドンってこんなに顔も体も近いの…?
『けい…?』
「言いましたよね?欲しいものは手に入れたいって。僕も美優さんを狙ってるの忘れないでください。」
蛍は私の肩に顔を埋めた。
「合宿…帰りたくないなんて思ったの初めてです。」
壁についた手はいつの間にか私の背中にまわり強く体を抱きしめられている。
「美優さんの近くにいたい。」
ストレートな物言いに私は戸惑いを隠せない。
『蛍、どうしたの?』
「一応、甘えてるんですケド…」
リエーフが犬なら蛍は猫みたい。こちらが構おうとすると離れていく。でも今みたいに自分からすり寄ってくる時もある。気まぐれな猫。そんな分析をしながら頭を撫でていると首筋にチクリとした痛みが走った。
『蛍…何してるの。』
「つけちゃいました。」
珍しく爽やかな笑みを浮かべてもごまかされないからね。痕が付いた首筋に手を添え目を細めるが、蛍には全く効果はないようだ。
「ねえ、美優さん。キスしてよ。」
再び捕まった腕の中、耳元でぼそりと呟かれた言葉に首を横に振る。
『いや、だめだよ蛍…』
「じゃあもう1つキスマークつけてもいい?」
究極の選択。
キスするか、痕を残されるか
さあ…どっち⁈
完全に頭の中はパニックでうまく言葉が出てこない。
そんな私を見て蛍は呟く。
「1ヶ月…次の合宿まで好きな人に触れられないんです。少しくらいワガママ言わせてください…」
16歳らしく拗ねたような蛍の顔。その表情に蛍の肩に手を添えると少しだけ背伸びをして頬に唇を落とした。
「それだけ?」
腰が引き寄せられうなじを支えるように手が回る。
「……足りない。」
呟きが私の耳に届いた時には蛍の唇が私の唇に触れていた。