第13章 夏合宿4日目。
車に戻ると、繋心さんは仮眠通り越して爆睡。起こすの大変だった…学校に帰ってから私は鍋を4つ、雪平鍋を1つ用意した。
雪平鍋では猫又監督用のわらび餅を、4つの鍋には抹茶、コーヒー、紅茶、牛乳で寒天を作った。今は調理室の冷蔵庫フル活用して冷やしてる。あとは、食堂に行ってデザートの器借りてくるか…
そんなことを思っているとばたばたと廊下を走る音が聞こえる。時計を見ると12時をちょっと過ぎたところ。
来たか。
「みゆさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!」
昼休憩に入ったリエーフが私を呼びに来たらしい。練習で疲れたそぶりも見せずにドアを開けたリエーフに近づくと唇に人差し指を当て注意する。
『リエーフ、騒がないの。』
「今日のおやつは何?」
目をキラッキラさせて喜ぶリエーフ。
この笑顔…好きだなぁ。
『今日は寒天。好きなの選んで生クリーム絞って出来上がり。今固めてるからご飯食べに行こう?』
「美優さん美優さん!」
食事を促したはずなのになぜかリエーフに呼ばれ、私はリエーフに向き直る。
「はい!」
腕を広げニコニコ笑うリエーフは、私が抱きつくのを待つ。
仕方がないなぁ。ため息をつきつつ私はリエーフの胸の中に収まった。
「午前中美優さんいなくて寂しかった。」
離れていた寂しさを埋めるようにリエーフがぎゅっと抱きしめる。少しだけ罪悪感を感じつつ、私はリエーフの背中に腕を回す。
『本当、リエーフはあまえただね?』
「美優さんだけですよ?俺が甘えるの…」
『もう…』
厚い胸板の感触。
抱きしめる腕の強さ。
汗の匂いに混じる爽やかなフレグランスの香り。
幸せ。
幸せだからこそ
さっきの蛍との買い物も
触れた唇も
私を深く苦しめる。
『リエーフ』
暗い気持ちを無理やり拭い去るように
『だいすき。』
他の感触を消し去るため、私は自らリエーフに唇を寄せた。