第11章 月夜に啼く烏の声は
ふと遠くから聞こえる廊下を歩く音。
それは確実にこちらに近づいて来る。
それに気づいたと同時に私のスマホが振動する。
「あなたの犬は上手に”待て”もできないんですか…近くにいなくてもうるさい…」
『たしかに…じゃあ戻ろうか?』
蛍のその言葉に私はついつい吹き出すと、立ち上がり蛍に手を伸ばす。
蛍は私の手を取って立ち上がる。
足音はどんどん近づいて来る。
繋がれたままの手をさらに握った蛍は私を見て、不意に笑う。
「最初言った言葉、覚えてます?滅茶苦茶にしてやりたいって。」
端正な蛍の顔が私に近づくのと足音が止まる音がしたのは
ほとんど同時だった。
「月島…何してんの?」
鋭く尖った声が後ろから聞こえる。
その声はいつものリエーフからは聞かれない声で…
「見てわかんなかった?」
蛍はリエーフを挑発するように私を腕の中に引き寄せニヤリと笑う。
「キス…したんだけど…?」
その言葉と同時に私は蛍の腕から引き剥がされ、気づいたときには蛍の胸ぐらをリエーフが掴んでいた。
『リエーフ!』
「たかがキスくらいでなんなの?熱くなりすぎ…」
「月島…許さない…」
『リエーフやめて!』
私が間に割って入っても聞く気を持たないリエーフ。頭に血が昇っているのか蛍のTシャツの首元を掴んで離さない。
『やめなさいリエーフ!』
「美優さんは黙ってて。」
『だーかーらー』
私は少しだけ間合いを取る。
『やめなさいって言ってんでしょ‼︎‼︎‼︎』
私の足から繰り出されたやっくん直伝の回し蹴りはリエーフの背中にクリーンヒットした。