第11章 月夜に啼く烏の声は
「裏切り…とは違いますが、期待していた分落胆が大きくて。そこからですかね…頑張っても結果が必ずついてくることはないとか、信じても望んだ結果に必ずなることはない…とか…」
そっか…
信じていたものは嘘で、しかも自分が生み出していたもの。
兄が不要についていた嘘は弟からの期待に応えるため、そして兄としての威厳を守るため。
どちらの気持ちも辛くて苦しい。
「それでも…今回は欲しいって思った。人のものでも…手に入れたいって思ってしまったんです。」
顔を上げればこちらを向く瞳。思わず自分を指差し聞き返す。
『それって…私のこと?』
「他に誰がいるんですか…」
改めて言われるとくすぐったい。
「でも意外ですね。美優さんはあのタイプは苦手だと思ってました。」
『あぁ…本来なら苦手なタイプよ?真っ直ぐで正直で…』
純粋に気持ちを伝えられるのはすごく眩しくて、目がくらんでしまいそうで…日陰にいる私には不釣り合いだって思ってた。
『でも、その真っ直ぐさで私の中からいなくなってくれないの。いつの間にか私の心を掴んで離してくれなくて。』
「それじゃあ、僕が何しても無理ですね…僕には無理やり押し入る気すらおきない。」
自嘲気味に笑う蛍を見て私も笑う。
「それでも…」
蛍は床に投げ出していた私の手に自分の手を重ねる。
「それでも…どんな形でもいい。側にいたかった…好きです。美優さん。」
『ありがとう…蛍。』
重なった、少し震える手を、私はそっと握り返した。