第11章 月夜に啼く烏の声は
不意に私の携帯が震える。
それが合図とでも言うように蛍の腕は離れていった。
『蛍…』
「何やってるんですか。彼氏が呼んでるんでしょう?俺なんか放っておいて行けばいいじゃないですか。」
『行けないよ…そんな顔してる蛍置いて…』
いつもの気だるげな、余裕ぶった面影は微塵もない。
迷子の子供のような不安げなをしている蛍を置いて行けなかった。
壁に背中を預け足を投げ出し座る蛍の表情は暗い。
私は少し迷ったが蛍の前にしゃがみこみそっと頭を撫でた。
「何してるの…?」
『泣きそうだったから…』
「泣かないし…っていうかさっき襲われた相手によく優しくできますね。」
確かに…普通そうだよね…
さっきの蛍は怖かった。でも、今の蛍は怖くない。
『蛍ってくせっ毛?髪の毛気持ちいい。』
ふわふわの髪の毛を撫でていると蛍が顔を上げる。
「人の頭撫ですぎじゃないですか?」
『なんか蛍が弱ってるのレアだから…今のうちに。』
「なにそれ…」
『蛍って普段大人びてるけど…たまに構ってあげたくなる。』
頭を撫でる手を掴まれる。驚き蛍の顔を見るとその瞳はまっすぐ私を見つめていた。
「美優さんはもしかして、身近の誰かに裏切られたり信用できなくなるような…そんなこと…あったりしませんでしたか?」
不意に呟かれた蛍からの疑問。
前に蛍と似ていると感じたこと。
『蛍も…?』
少し間を置いたあと、蛍は頷きぽつり、語り始めた。
「僕は兄…でした。小さい頃から兄のことを追いかけていました。中学で兄がバレー部で活躍しているのを見て、兄のようになりたいって思っていました。高校でも兄はバレー部に入部し、レギュラー入りして、順風満帆…っていうんですか?僕から見ても青春していました。兄が部活でどんなことをしてきたのかを庭でバレーの練習をしながら話を聞くのが毎日楽しみでした。」
話を聞きながら私は蛍の隣に座る。
「兄の高校最後の試合、僕は兄の試合を見に行ったんです。兄が見られるのを恥ずかしがって毎回許可が下りなくて。それでも高校最後だし、見に行きたくて…
結論を言うと試合中、兄はコートにいなかったんです。ユニフォームじゃなくジャージで応援していました。」
ユニフォームはレギュラーの証。それを着ていないと言うことは…
『嘘…』
私が呟いた言葉に、蛍は首を縦に振った。