第10章 夏合宿3日目。
夜。
練習時間が終わると今日もみんな各自自主練に移っていく。
ビブスと洗濯物を回収していると、いつもはいの一番に夕飯に向かうけんまが体育館に残っている。それも1人で。
『あれ?けんま。今日は自主練に参加するの?』
「翔陽にトス上げてって言われて…もう疲れたから上がるね…」
『え?ちょっと!日向くんは?』
「翔陽…体力ありすぎ……美優フォローよろしく。」
そういうとけんまはこそこそと体育館を出て行った。
いやいや…私も仕事ありますから…
「けーんまぁあ!トスあげてくれー‼︎」
どこからか戻ってきた日向くんはもう体育館にはいないけんまを探している。
「あれ?研磨?」
『日向くん?けんま部屋に帰っちゃったよ?』
私からけんまが帰ったことを聞くと日向くんはショックを受けた顔をして膝から崩れ落ちた。
「トス5本しかあげてもらってない…」
『確か日向くんって相棒いなかったっけ。黒髪の…影山くん?』
「翔陽でいーですよ?えーっと…音駒のマネージャーさん!」
翔陽は私の方を向き、にかーっと笑う。この子の笑顔もリエーフと一緒で太陽みたい。
「影山はまた1人でトス連始めました。オレは影山以外の誰とでも1stテンポでボール返せるように練習中っす!」
『ふぁーすとてんぽ?』
ってなに?私が困ったように見つめ返すと、翔陽が拙い日本語で教えてくれた。
それを踏まえできるだけわかりやすくいうと、トスが上がったのを見てから走り出すのが3rdテンポ。
トスと同時に走り出すのが2ndテンポ。
スパイカーが先に走り、セッターがタイミングを合わせるのが1stテンポ。
「誰か練習してくれる奴いないかなぁ…」
しょぼくれた翔陽の背中を見て私はふと思い出した。
『ねえ、翔陽。第3体育館行ってみなよ。あそこなら梟谷のスパイカーとセッター、あと音駒のミドルブロッカーもいるよ?』
「マジで!…すか?じゃあ行ってみる!ます。」
テンションの上がったしょーよーは片言の敬語を使う。
『敬語苦手なら使わなくてもいいよ。練習行っといで?』
「うん!ありがとっ!音駒のマネージャーさん!」
そう言いながら走っていく翔陽にそういえば名前を名乗っていないな、なんて思いながらとりあえず洗濯をしに体育館を出た。