第1章 減らない料理
思えば、付き合う時もそうだった。
「シュリ、俺達付き合おっか。」
学校からの帰り道。
自転車で二人乗りをして帰っている時、髪を撫でる風と同じくらい自然に湊が言った。
「うん。付き合う!」
私もそれが当たり前のように頷いた。
あの時湊はきっとはにかんでいた。
プロポーズの時と同じように。
私は湊の腰に腕を回して抱き付き、その温もりに幸せを感じた。
当たり前のことが幸せだった。
明日も、明後日も、その先もずっと…二人がしわくちゃのおじいちゃんとおばあちゃんになるまで一緒にいると信じて疑わなかった。
だから、こんなに早く、こんなに突然いなくなってしまって、私はそれを受け入れられなかったんだ。
その後、湊が私の前に現れることは一度もなかった。
「ご注文は?」
「カルボナーラとアイスコーヒーで。」
二人がお気に入りだったパスタ屋さんで、私は彼の写真を見つめながら、彼の大好きだったカルボナーラを食べる。
「美味しいね、湊。」
これが、今の私の幸せだ。
「減らない料理」END.