第9章 Fate/Zero...? やがて、拠点となる廃屋で
「あー、完全に遅刻じゃん! でも、■を施設に連れてかないとなんないし――」
「あ、それなんだけど、龍之介。私、施設には戻らないでおこうかと思うんだ」
「え、なんで?」
「ここ、条件としては、かなりよさそうだから、もう、このままここに住もうかなって」
さいわい、施設の人たちには、もう暗示をかけてあるから、さがされるという心配はない。
私がそう返すと、龍之介はしばし、じっと私を見つめて、それから、ちょっとだけうれしそうに笑った。
「それじゃあ、■は、この屋敷を気に入ってくれたんだ? 俺、なーんか、うれしいかも」
――龍之介は、一体、何がそんなにうれしいのだろう。
龍之介の顔を見て首をかしげていれば、彼は私を床に降ろして、ポケットから何かを取り出した。
そして、取り出した何かを私の手に握らせる。冷たい、金属の感触がした。
「……龍之介、これって」
「そ、この屋敷の鍵!」
にこやかに笑って、龍之介は呆然とする私に語る。
「俺、暇だから、ずっとバイトしてたけど、別に金なんて使わないしさ。貯まるばかりでも、もったいないし、有効活用してみたんだよね」
――それは、つまり、龍之介がこの廃屋を買い取ったということで、
「だから、この屋敷は、俺から■へのプレゼントってこと! 超coolだろ?」
茶目っ気たっぷりな笑みを浮かべて、龍之介が言う。
その一瞬、私は、言葉が出てこなくて、だけど、自然と口もとは、ほころんでいく。
「すごくcoolだよ、龍之介――ありがとう」
私が鍵を握りしめて言うと、龍之介は、ひどくうれしそうに笑った。