第1章 「過去の未来」 怨嗟の叫び
「そんなにも勝ちたいか!? そうまでして聖杯が欲しいか!? この俺が――たったひとつ抱いた祈りさえ、踏みにじって――貴様らはッ、何一つ恥じることもないのか!?」
声の限りに叫び続ける青年にしがみつきながら、私は、ひたすらに「ごめんなさい」と謝り続けることしかできなかった。
――知っていたのに。わかっていたのに。私は、何もできなかった。
私の目からあふれる涙が、青年の傷口からあふれる血が、服に染みを作っていく。
なのに、青年の身体は、まるで砂でできているかのように、ぼろぼろと、端から崩れて消えてゆく。
「許さん……断じて貴様らを許さんッ! 名利に憑かれ、騎士の誇りを貶めた亡者ども――その夢を我が血で穢すがいい!」
血反吐を吐きながら、青年は鬼の形相で、声を荒げる。
「聖杯に呪いあれ! その願望に災いあれ! ――いつか地獄の釜に落ちながら、このディルムッドの怒りを思い出せ!!」
それを最後に、青年の身体が、完全に消え去った。青年という支えを失った私は、バランスを崩して、地面に残った血溜まりへと倒れこむ。
また、何もできなかった。
けど、そうやって自分の無力さを嘆く暇さえ、今はない。せめて――せめて、彼の守ろうとしたものだけは、守らなくては。
車椅子の男性と、その腕に抱かれた女性のもとへ駆ける。車椅子の男性には、きっと、それがどういう意味を持つのか、わからなかった。一方で、私は、こちらを銃器で狙撃しようとしている女性がいることを知っている。
「逃げて!」
声の限りに、願いの限りに、叫んだ。
――だけれども、所詮は私は無力な子どもだった。
放たれた弾丸の前から、二人を移動させることもできず、二人を庇う盾にもなれず――私の目の前で、赤い血しぶきがあがる。
もう何度目になるかもわからない、命が失われていく瞬間。
私は、目の前が真っ暗になっていくのを、ただ、感じていた――
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