第2章 「過去の未来」 受け入れる決意
ずっと、「みえて」いた。ずっと、「きこえて」いた。
――ただ、身体だけが、眠り続けていた。
幾度となく、人が私に声をかけ、ふれてきても、私は何の反応も返せないまま、時はすぎていく。
士郎は衛宮の養子になって、私は教会に保護され、なぜかギルガメッシュに気に入られて、綺礼の手によって命を繋がれている。
そして、時折ではあるけれど、垣間みる――『この世界』のどこかで、起きていること。
――ひょっとしたらと、思う。
私は、『世界』の仕組み――理から外れた“魔法”のような存在であるがために、異物を排除しようとした『世界』に侵食されているのではないかと。だからこそ、私は『世界』で起きていることが、みえてしまうのではないかと。そして、いずれ、私は『世界』に飲みこまれてしまうのではないかということ。
だとするなら、そうだというのなら、私は人間であることを捨ててもいい――『世界』をも超越する“魔法”になりたい。
私が、『世界』の壁をこえて、いつの間にか、『この世界』へと迷いこんでいたように。私は再び、『世界』を超えたい。
そうして、『この世界』が紡ぐ――呪われた運命を、変えたい。
そう思ったとき、私は、少しだけ――“魔法”という存在に、近づいたのかもしれない。
長いこと動くことのなかった身体が、動いた。一年ぶりに自分自身の目で見た景色は、涙のせいで、にじんで見える。
ずっと寝たきりになっていた体は、筋力が衰えて痩せ細り、身じろぎするのも、難しかった。
――それでも、私には、会いたい人がいる。
頬を伝っていた涙を拭い、私は言峰教会の地下にある一室――鍵がかけられた扉を、純粋な魔力の塊をぶつけて吹き飛ばし、そこから逃げ出した。