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Fate/IF

第6章 「過去の未来」 いつか、きっと、また


「■――■、しっかりしろよ!」
 もう、動くこともままならない私の身体を抱きしめて、赤銅色の髪の少年が、私の名前を呼ぶ。
 その背中越しに見えるのは、悲痛そうな顔をした――私の大切な人たち。
 自分を抱く腕の持ち主を含め、誰をも失うことのなかった結末に、私は薄く笑う。
「……みんな、無事、だね」
「ああ、無事だ。無事だよ。俺たちは無事だから――お前の、■の傷も、大したものじゃないから――!」
 ――それは、うそだ。私の怪我が、大したものじゃないなんて、それは、うそだ。
 私は、静かに、かぶりを振って、私の顔を覗きこむ彼の瞳を見つめ返し、笑う。
「いいの――私は、もう、手遅れだから」
「そんなこと言うな! そんな、お前らしくもないこと……!!」
 瞳を揺らしながら、声を大きくする彼の姿を見るのは、少し、胸が痛かった。
 だけど、直に、この命が終わることは、私自身が、一番よくわかっている。まるで、目の前の少年が、だだをこねる子どものように思えた。
 困った笑みを浮かべる私の視界の中で、今の時期、咲いているはずのないクマツヅラの花が揺れる――それは、かつて、ある聖人の体から流れる血を止めたという逸話の残る、花。
 私は、その花言葉を思い出して、ぽつりと、呟いた。

「魔法、か……」

 『この世界』には、“魔術”はあるけれど、“魔法”はない。
 ――いや、正確にいえば、“魔法”と定義されるものはあるのだけれど、それを扱える存在が、ほとんどいない。
 そもそも、『この世界』で定義される“魔法”というのは、火を出したり、水を出したりといった、現代の人間が持つ普通の技術でも実現可能なものを含めない。そういったものは、むしろ“魔術”と呼ばれるものに、分類される。
 それじゃあ、『この世界』の“魔法”はどういったものなのかといったら、それは人間の持ち得る技術などでは絶対に実現し得ないものだ。
 “この世の全ての人をしあわせにする”なんてことは、まさに究極の“魔法”と呼べるのかもしれない。
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