第6章 「過去の未来」 いつか、きっと、また
そういうことを前提にして考えると、私という存在は、あるひとつの“魔法”のようなものなのかもしれない、なんてことを、よく考えた。
なぜなら、『現実世界』にいたはずの私は、この――「Fate」シリーズという『架空の世界』で、新しい人生を、やり直していたのだから。
新しい人生をやり直していたといっても、別に、生まれ変わったわけじゃない。『現実』で死んだという記憶もない。
ただ、気がついたら、私は幼いころの姿で、『この世界』の見知らぬ施設に入れられていた。
初めは、『この世界』が、私にとっての『架空の世界』だなんて、全く、気がついていなかった。疑問だけはあったけれど、身に覚えのない状況下で、ただ周りに流されるまま、生きていた。
――だけど、いつからだろう。私は、夢をみるようになった。
存在しないはずの人たちが、係わり合い、言葉を交わし合う姿を――『架空の世界』の「登場人物」でしかなかった彼らが、「人」として、生きている姿を。
そうして、ある夏の日、クマツヅラの咲く野原で、私は、この「赤銅色の髪をした少年」と出会った――
ゆるりと、落としたまぶたの裏に映るのは、あの夏の日にみた夢。
眠っている「私」に、ゆっくりと近づいてくる赤銅色の少年を、私は夢の中で、みつめていた。
「私」の髪には、ひとひらの花びらがついていて、赤銅色の少年は、それを取ろうと思ったんだろう。きっと、「私」を起こす気なんて、さらさらなかったのだ。
だけど、伸ばされた手が、私にふれた瞬間、ばちりと弾かれるような感覚がして、「私」は、目を覚ました。
「あ、ごめん。髪に、花びらがついてたから、取ろうと思ったんだけど……」
「――うん、知ってる」
目の前に立つ赤銅色の少年に、そう返したら、彼はちょっと不思議そうな顔をした。
「起きてたのか?」
「ううん、夢でみてた」
かぶりを振って答えれば、当然ながら、彼はますます不思議そうな顔をする。
私は、それには気づかないふりをして、言葉を続けた。
「私、■っていうの」
そして、返る答えを確信しながら、問いかける。
「――君は?」
赤銅色の少年は、少し目を瞬かせて、それから、あどけない顔で少しだけ笑った。
「俺は、士郎っていうんだ。よろしくな、■」
吹き抜けた一陣の風が、クマツヅラの花々を揺らしていく――