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Fate/IF

第5章 【赤き弓兵の記憶】 身勝手な願い


「ねえ、何も怖がることなんてないんだよ。今の士郎も、アーチャーのシロウも知らないだろうけど、私は魔法みたいな存在だから」
 腕の中で、彼女は言った。
「私は、イレギュラーなんだよ。本来なら『この世界』のどこにも存在しなかった。だから、私は『この世界』の理を捻じ曲げてる。私は異物ゆえに、そう遠くない未来に『この世界』に排斥される――」
 彼女が何を思い、そう語っているのか――英霊となった私ですらわからない。ただ、その声にはなんの秘め事も感じられなかった。

 ――それはつまり、彼女という存在が『世界』によって失われるのは、変えられない事実だということを示す。

 どうしようもない激情が、こみあげた。

 かつて、私は英霊となることを『世界』と契約した。百の命を救う奇跡を起こす代わりに、死後を『世界』に捧げる契約をした。
 『世界』は、私を“抑止の守護者(カウンターガーディアン)”という立場に置き、私は望まぬ人殺しをしてきた。そして、戦いの最中で、人の醜さを嫌というほど見せつけられてきた。

 その『世界』によって、彼女は奪われようとしている――
 堪えられなかった。こんな『世界』のために、彼女が失われるのは。
 彼女を失いたくないという想いが、腕の中にある小さな体を強く抱かせる。しかし、なおも彼女は穏やかな声色で続けるのだ。
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