第5章 【赤き弓兵の記憶】 身勝手な願い
「よっぽど、私を連れて行きたくないんだね。君の記憶には、私がいなくなることでも刻まれてるのかな――シロウ」
刹那、私は息をのんだ。なぜ、彼女が「それ」を知っている? 彼女は、何も「知らない」はずなのに。
そんな私の疑問を他所に、彼女は平然としている。
「召喚されたばかりのころは、何かと私を気にかけてくれてたのに、いつからかな、急に私に対して冷たい態度を取るようになった――最初はね、アーチャー、あの日に君を――衛宮士郎という、君が最も憎む過去の自分を――生かした原因が私だって知ったからだと思ってたんだよ」
それは違う。思わず、否定したくなった自分を、なんとか黙らせる。
彼女の言葉を否定してしまえば、私は彼女の正しい推論が、真実であると認めることになってしまう。
だが、彼女はもはや私の言葉などなくとも、自分の考えが正しいと気づいている。だからこそ、言葉を続けるのだ。
「でも、やっぱり違うね。君は怯えてる。君が、まだ生きていたころの記憶に、怯えてる」
「――言うな」
「アーチャー――ううん、シロウ。私は、アーチャーである君と一緒にいたことで、死ぬんだね?」
「言うな!」
確信を持って投げかけられた問いに、私はたまらず声を荒げる。そして、振り向きざまに、彼女を自らの腕にかき抱いた。
「もう何も、言わないでくれ……」
しぼり出した声は、自分でも情けなくなるほどに震えていた。
好きだった――ずっと「昔」から。
愛していた――この魂が英霊となる以前から。
そして、彼女が「オレ」と「私」の恩人であることを知ったとき、なおさらに、いとおしくなった。失いたくないと願った。
それだというのに、彼女は「オレ」の記憶にあるように、「私」と共に、自ら破滅の道を進もうとしている。