第5章 【赤き弓兵の記憶】 身勝手な願い
「冗談は顔だけにしてくれないか。君のような足手まといを――」
「あれ、ずいぶんと甘くみられてるんだね。それとも、アーチャーには、私をこの先へ連れて行きたくない理由でもあるのかな?」
私の言葉を遮って紡がれたそれに、一瞬、肝が冷えた。
「昔」から、そうだった。彼女は、どうしてか、「オレ」や「私」の考えていることを、見透かすように、言葉を紡ぐ。そういうときの彼女の瞳は、決まって湖面のように凪いでいて、ともすれば、彼女の瞳には「全て」が映っているのではないかとさえ、錯覚してしまう。
だが、ここで「私」が言い負けてしまえば、彼女の身に訪れるのは、破滅のみだ。私は何か言葉をさがそうとして――けれど、それすらも、彼女の前では無意味だった。
「アーチャーが何を言っても、私はついて行くよ」
「……ただの人間である君が、私について来られるとでも?」
「目的地がわかってるんだから、遅かれ早かれ、追いつくよね」
彼女はしれっと言い放ち、続ける。
「まあ、私はただの人間だから、一人で行ったら、途中で罠とかに引っかかるかもしれないけど」
それが、己の命が絶たれることを意味すると、おそらく彼女は知っている。だが、彼女は怯える素振りさえ見せず、あくまで私についていくという意思を示した。
私が今度こそ閉口して、彼女から顔を背けると、彼女は困ったように笑う。