第31章 僕が僕らしくあるために
今まで2年近く、殆どできなかったことが、
急に出来るはずない…
智はそんなに器用じゃない
だから……
「俺はね、智が、智らしくあるために…」
「俺が…俺らしくあるため?」
「そう。…智らしく生きていけるために、智に自由な時間を作って欲しいんだ…」
「でも、俺は///」
「智…もう時間だ。タイムリミット…
途中になっちゃったけど、ごめん。
もう行かないと、新幹線の時間に間に合わないから」
智は唇を噛みしめて俺と目を合わせない。
「簡単に決められる話じゃない。
続きは、また話そう…」
「……」
俯いて何も話さない智の肩を抱いて歩き出そうとしたけど、スーッとそれをかわすように、ひとりで車へ向かって歩き出した。
俺は黙ってその後に付いて行く。
すっかり暗くなってしまった砂浜に、
ふたりの砂を踏む足音だけが静かに響く…
智は、自分で助手席のドアを開けて乗り込み、
シートに深く沈んで目を閉じた。
智……
彼の気持ちを思うと、胸が痛かった。
別れるんじゃない…
俺たちがこれからも自分らしさを大事にしながら、一緒に生きていくために…
………
…俺が出した答えは、きっと間違っちゃいない…
だけど。
こんな彼の姿を見ると、
『嘘だよ。やっぱりずっと離れない』
そう言って抱き締めたくなる。
でも。
もう、後戻りできない…
これでいいんだ…
これがいい…
無言の車内。
Bluetoothが拾って流したメロディは、
俺がシャッフルに設定していた嵐メドレー…
その中の、奇しくも『Still…』だった。